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インタビュー 農家兼サーファー。トルコギキョウを栽培する春原さんにみる農家の新たなライフスタイルとは

今回のHumans of 農業では、長野県上田市でトルコギキョウ(別名リシアンサス)を栽培する春原勇太さんにフォーカスしました。
農業とは無縁の生活を送ってきた春原さんでしたが、サーフィンをしている中で出会ったサーファー兼農家さんのライフスタイルに興味をもち、就農を検討。
里親制度を活用して就農し、現在では独立4年目にしてハウス8棟でトルコギキョウを栽培する農家として活躍されています。
今までHumans of 農業で取材してきた農家さんとはまた違ったタイプの春原さんに、就農までの道のりや今後の展望などについて聞いてみました。

目次

 就農を目指すきっかけはサーフィン?

ーー春原さんはなぜ農業をやろうと思ったのですか?

農業を始めるきっかけは、それまでずっとサーフィンをやっていまして、その繋がりで出会った方が農家さんだったというのがあります。

サーファーとしての春原さん

ーー(その方とは)サーファー仲間だったのですか?

そうではなくて、その当時色々なところで行われていたサーフィンの大会に出させてもらっていて、宮崎県の大会に行っている時に地元のサーファーの方とお話をしていたんです。その時ちょうど仕事をやめていたので、サーフィンをもっと練習したいと思って宮崎に行ったのですが、その地元のサーファーの方と「サーフィンをしながら仕事につけることってありますか」という感じで世間話をしていたら、「実は農家でサーファーもやっている人がいるんだよ」と教えてもらいました。直接紹介してもらって話をしたりしながら、「こんなライフスタイルもあるんだな」って知ったのが最初のきっかけですね。

それで地元の長野に戻ってきて、自分で就農についてインターネットとかで調べた時に、色々な制度があることを知ったのでそれについて相談に行ったのが最初になりますね。

トルコギキョウの栽培を始めたきっかけ

ーーその農業の中でも、なぜお花の栽培をしようと思ったのですか?

当初はその宮崎の方がキュウリの栽培を結構大きくやっていらして、作物によっては儲かるというような話も聞いていたので、野菜でやっていこうと思っていたんです。
それまであまり農業に興味を持ったことがなかったので、自分がいざ農業って想像した時にやっぱり最初に野菜が浮かんで、「トマトとかキュウリでやっていくんかな」って感じで相談しに行ったんです。するとその年は、ちょうど自分が里親制度で研修したトルコギキョウを栽培している方が里親制度に登録した年だったんですよ。あまりはっきりと作物を決めていなかった私を見て、その時相談した担当の方が「花はどうですか?」と提案してくれました。当時はそもそも農業に花という部門があること自体あまり想像できていなかったんですが、なんか面白そうだなと思ったのでちょっと話をさせてもらい、最終的に「ぜひやってみたいです」と言って研修がスタートしました。これが花をやろうと思ったきっかけになりますね。

ーー実際にお話して興味が湧いてきたからやってみようと思ったんですか?

そうですね。はじめは、里親制度での研修は2年間あってその過程で独立するときに育てたいものを模索すれば良いかなと思っていたので最初からトルコギキョウ一本とは決めていなかったです。でも研修期間中に話を聞いたり作業をしたり、出荷して金額を知ったりしていくうちに、「(トルコギキョウには)かなり可能性があるな」と感じ、具体的に栽培することを考え始めていきました。

春原さんの栽培するトルコギキョウ①

里親制度について〜新規就農までの道のり

里親制度とは

長野県では、農家子弟以外の新規就農者(新規参入者)の独立自営就農を支援するため、里親として登録された農業者が技術習得だけでなく、地域への紹介や農地・住宅・中古機械の確保、就農後の相談役としての応援を行う新規就農里親支援事業を平成15年度から行っている。

https://www.alic.go.jp/content/000133090.pdf

高齢化に伴う農業従事者の減少に歯止めをかけるため、就農を志す新規参入者をあらゆる面でサポートする制度。長野県のみならず、他の自治体で実施しているところもあります。

なお「農業次世代人材投資事業(準備型)及び就職氷河期世代の新規就農促進事業」という、国が交付する補助金によって新規就農者に資金援助を行う事業があります。各都道府県で申請を受け付けていて、公募条件を全て満たした人のみ申請することが可能になっています。県が定めた研修機関等で研修を受けることも公募条件の一つになっており、長野県では「里親制度で研修を受けること」がそのうちの一つとして掲げられています。春原さんもこの事業より資金援助を受けていらっしゃいました。

より詳しく知りたい方はこちら↓
参考:https://www.pref.nagano.lg.jp/noson/sangyo/nogyo/shinki/jisedai.html

ーー里親制度は2年間と決まっているんですか?2年たったら独立しなければならないのですか?

基本そうだと思いますね。そして2年後には農業関係、つまり就農だけでなく農業に関係する会社などに就職しても良いことになっています。就農しなかったり、こうした農業関係の会社に就かなかったり、その他条件を満たさなかった場合はいただいた給付金(の一部または全額)を返還しなければならないんです。でも当然みんな独立したい思いで里親制度を活用しているので、就農する人が多いと思います。
長野県って冬はあまり作業とかないので、研修生で集まって勉強会みたいなものをやるんです。私も参加したりしましたが、その研修生の中に里親制度を使っている人も結構いる印象でした。

ーー実際2年が終わり、独立して新規就農するとなった際は具体的にどんなものが必要になりますか?

お金と土地でしょうか。自分は家が農家だったわけでもなく本当に0からのスタートで、お金はそんなになかったので当然借りないといけませんでしたし、土地もなかったので探さなくてはいけませんでした。この土地を探すのにも、研修中からずっと探していて1年以上かかってやっと見つけたんです。

ーーお金を集めるのは大変でしたか?

お金を借りるのは、研修をきちんと受けてちゃんとした書類を提出すれば上限3700万円まで借りることができます。しっかり研修を受けて経営五カ年計画をきちんと立てていたら借りることができましたので、そんなにお金の心配はしていませんでしたね。

ーー実際2年間研修してみて、栽培方法などのスキルはある程度つきましたか?

長野県って結構標高差があるじゃないですか。それで今ここは550mなんですが、その研修していた方のところは900m近く標高があったんですよ。
そうすると、やっぱり夜温などが時期で大分変わってきたりするんです。その方の栽培期間と出荷時期と、うちの出荷時期って全く違うんです。その人は夏出荷していますが、うちは春と秋の出荷なんですよ。
あとは雪の量が全く違ったりっていう違いも出てきます。雪の多いところだと冬は潰れてしまいますが、ここら辺だと雪の量はそこまで多くないので冬も暖房を炊けば栽培できるんです。そんな感じで結構場所によって条件が変わるんですよね。

ーーそういったところでは最初苦労されましたか?

そうですね。とにかく条件が全く違うので、独立して最初の頃は研修期間で学んだことを活かしつつ、自分の環境に合ったスキルへと応用していきました。やりながら色んな方に相談したりとかしていますが、まだまだ模索中といった感じです。

春原さんのハウス。春原さんの師匠曰く、「畝の準備段階で約8割決まる」とのこと。繊細で丁寧な作業が必要かと思いますが、春原さんは「(栽培は)面白いんですよ」と、とても楽しそうに語っていました。

トルコギキョウの世界〜トルコギキョウってどんな花?

春原さんの栽培するトルコギキョウ②

ーー春原さんはトルコギキョウのどんな品種を栽培されていますか?

色々な品種ですね。笑
トルコギキョウには一重という小輪の小さいものや八重という大きな花のものまで、たくさん種類があるんです。多分品種は500くらいあるんですよ。あと、春と秋で作れる品種も違ったりするので品種選びからすでにめちゃくちゃ大変なんですよね。そこがすごい面白いところですが。
大輪系のお花は作り方によってはすごく豪華なお花になるので、ブライダルなどの冠婚葬祭シーンで使われることが多いですね。うちは出荷時期が5・6・7月と10・11月になるんですが、ブライダルシーズンの6月ごろもちょうど出荷時期に入っているのでそういったところに焦点を当てた業務用のお花としても作っています。

ーー色には元々決まった色があるんですか?それとも品種改良などで様々な色を作ることができるんですか?

一重のトルコギキョウで白地にふちが紫のものが一番有名なものかと思いますが、それ以外にも本当にめちゃくちゃ種類があるんですよ。
ある地域の農協さんがオリジナルの品種を出したりなど、個人や団体で育種(改良品種を作ること)をされているところもあるので、たくさんの種類があるんです。
長野県にも世界的に有名な育種家の方がいらっしゃって、その方の品種を作らせてもらえる資格を持っている人は全国でもかなり少ないのですが、その中に自分も入れさせてもらっていて栽培しています。その品種を栽培するには条件があって、メーカーさんや市場さん、そしてベテランの生産者さんのうち2名以上の推薦がないとその品種を作ることができないんです。色々アルバイトで顔を出して顔を覚えてもらったり紹介してもらったりして、今作らせていただいています。その品種は本当に売れますね。(笑)

春原さんの栽培するトルコギキョウ③

ーー種類がたくさんあるトルコギキョウとのことですが、春原さんが思うその魅力とは何でしょうか?

トルコギキョウって日持ちがすごいするので、家で飾ったりしてもらっても長く楽しめるところとか良いですね。
人にあげたりしても、「日持ち長くするね」って言われるのは生産者側からしたら嬉しいことなんですよ。一個の株に病気がないということなので、嬉しいでね。
あとは色んな種類があるので、見たことないって言ってもらえるのも嬉しいです。
でも、長野県ってトルコギキョウの生産高が日本一なのにそれを知らない人がすごく多くて、そういうのはちょっと悲しいなと思っています。県としてはそれを評価していて、一位を維持していこうと強化作物にしていますし、生産者の方にも有名な方がたくさんいたりするのに、それでもまだ知られていないっていうのが残念です。なのでトルコギキョウと言ったら長野県の人が「地元が生産高日本一」と認識してもらえるようになるまで認知度をあげることができるとすごく良いのかなと思いますね。

好きなことをやりつつ農業もやる。それって大変?

ーーサーフィンをやりながらできるお仕事ということで農業に興味を持ったとのことですが、農業従事者が減少傾向にある今、そういう興味から実際に就農なさるのは夢があることだと感じました。

今は結構 農業とサーフィンを両立する理想とはかけ離れてしまっていますけどね。
なのでまだ借金とかありますけど、今後はお金で時間を作ることも考えるべきなのかなと思っています。
人を雇うとか、自分が無理してやるとか、サーフィンを諦めるとか、色々な選択肢があると思うんですけど、そろそろ道具や機械を使ってなるべく仕事を効率化していくのが今後の課題かと思っています。

ーーいずれまたサーフィンはやりたいですよね?

やりたいですね。いつでもやりたいですけどね。(笑)

ーー今後春原さんのような好きなこと×農業を両立するライフスタイルが増えれば、農業に対する価値観も変わるのかなと思いました。

そうですね。農業のイメージは変わった方がいいですよね。
でも、スノーボードを冬にやりたいから農業をやるって人とかは結構長野や北海道にいるんですけどね。

今後について 農業を通した教育の提供を

ーー今後、トルコギキョウ以外の他の花にも挑戦していく予定はありますか?

一応考えていますね。
トルコギキョウって連作障害とかに弱い作物で、ウイルスなどが何年も蓄積して耐えきれずに枯れてしまったりこともあるデリケートな作物なんです。なので、そこでワンクッション置いて野菜などでもいいので違う作物を入れたりするのは考えています。あとは手がかかる作物なのでもう少し作業効率をあげることによって、経営についてももう少し意識を持っていかないといけないのかなと考えているので、今は色々な農家さんを見せていただいて模索している最中です。

ーー将来の野望はありますか?

最終的なゴールとしては、人生に行き詰まった子たちをうちで雇いたいですね。
生きるのは結構楽しいよっていうことを、ここで味ってもらえる子が出てきたら楽しそうですよね。

ーー教育に興味をお持ちということですか?

そうですね、里親制度を通してここまできたので、今度は僕が里親として受け入れるのも将来的に考えてはいますね。

ーー素敵な野望ですね。

あまりでっかい野望はないです。たくさん儲けたいとか、会社にしたいとか。完全な経営者になるよりかは農家であり続けたいですね。

ーーこれから新規就農を目指す方々に声をかけるとしたら?

そうですね、現実は厳しいよって(笑)。
でも、やってみることが大事だと思います。挑戦してみて失敗してしまってもまた次がありますし、やってみないと何もわからないと思うので。
チャレンジすることは辛いことだけどいいことだよって言いたいですね。

ーー春原さんは就農してみて後悔していないですか?

後悔はしていないですね。

編集後記

就農という選択をしたことに後悔はないとおっしゃる春原さん。サーフィンがきっかけで元々興味がなかった農業に興味を持ち、ゼロベースから農業を始めてここまでやってこられた春原さんのお話は、農業をやってみたいという気持ちを持つ方々にとってすごく勇気づけられるものだと思いました。
農業人口の高齢化が進む今、ライフスタイルの選択肢の一つとして就農を考えることが若い人にとって当たり前になるような仕組み作りが必要なのかもしれません。
そういったライフスタイルを推奨していくには、行政が出す里親制度のような支援プログラムの充実や、春原さんのような教育者と就農希望者のマッチングなどが重要になってくると感じたインタビューでした。

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