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タネが食の未来を握る? 「タネの図書館」について浜松シードバンク・シードカフェさんに聞いてみた!

昨年12月に種苗法の改正が可決され、農に関わる人には今何かと気になるタネの話。しかしそれは、私たちの食べ物の未来に深い関わりのある、誰にでも関係のあるお話なんです。

そんなタネを守り繋ぎ、タネの大切さを人に伝えていく活動「タネの図書館」についてご存知でしょうか。

韓国で2年間生活し現在も韓国料理を好んで食べる私は、韓国料理によく使うエゴマを手軽に得るためにベランダ菜園を始めました。

去年10月に畑を借り始めたのをきっかけに、タネにも色々な種類があることを知り、家庭菜園に向いているということから、できる限り固定種、在来種を育てることにしました。

また畑ができたことで更に多くの韓国野菜を育てたくなり、韓国でのタネの入手先を探していたところ見つけたのが、ソウル市江東区が運営する「在来種タネの図書館」でした。

この時、私は初めて「タネの図書館」というものを知り、調べている内に日本でも同じような取り組みを行っている団体、個人がたくさんいると知りました。

今回は家庭菜園初心者の私が、今気になる「タネの図書館」の活動をしている浜松シードバンク・シードカフェさんにお話をお聞きしました。

目次

「タネの図書館」とはどんな活動?

「タネの図書館」は文字通り、タネを借りてそのタネを再び返却するというものです。
どういうことかと言うと、タネを借りてそのタネを蒔き育て、花が咲いたらタネ取りをして、そのタネを返すということです。
団体によっては、シードバンクという名称であったり「2倍にして返す」という決まりがある場合もあります。

ではタネを借りて再びタネを取って返すことの意味とは何でしょうか?タネを大事に保管しておくのと何が違うのでしょうか?

この辺りは後ほど、浜松シードバンク・シードカフェさんのお言葉を借りてお話したいと思います。

タネの種類(固定種、在来種、F1種)について

タネにも色々と種類があることに、畑を借りるようになって気づいたとお話しましたが、私が畑を借りている体験農園マイファームでは毎月情報誌が提供され、それに付録として固定種のタネが付いてきたのがきっかけでした。

固定種

代を重ねて栽培されることで、その野菜の味や形等、個性や特性が固定されていったもの。

在来種

固定種の一部で、長い間その土地で栽培され土地の気候や風土に適応したもの。

F1種

異なる系統の野菜をかけあわせて生まれた第1世代。異なる系統の親同士をかけあわせると、メンデルの遺伝の法則により第1世代には両親の優勢な形質のみが現れるため、見た目や大きさが均一になる。また交雑により生まれた第1世代には、両親より成長が早く収穫量が増えるという性質もある。

大量に野菜を生産する慣行農業には、形も大きさも均一で同じタイミングで成長するF1種が効率的で向いています。実際に今スーパーで並んでいる野菜のほとんどがF1種と言われています。
一方、生育期間にムラがあり環境への適応能力が高いとされている固定種(在来種)は、家庭菜園に向いていると言えるでしょう。

なお、F1種は2世代目では1世代目に現れていない劣勢遺伝の特徴が現れ、1世代と同じ均一の性質を持つ作物は育たないためタネ取りはできません。固定種(在来種)はタネ取りをしたタネで再び栽培することが可能です。

浜松シードバンク・シードカフェさんにお話を聞いてみました。

浜松シードバンク・シードカフェとは?


左から藤松自然農園の藤松さん、ハルモモファームの川田さん、すいーとまむの漆原さん、「みんなのコミュニティガーデン」の高橋さんご夫妻

今回浜松シードバンク・シードカフェの農業を営む川田さん、拠点となるオーガニックショップすいーとまむオーナーの漆原さん、パーマカルチャーデザイナーの高橋さんにお話をお伺いしました。

1年程の準備期間を経て2021年1月16日に正式に開設された、浜松シードバンク・シードカフェ。

代表の川田さんは、2019年にゲノム編集食品の規制と表示を求める署名活動に協力したことが、タネの安全性について伝える使命感を持ち始めるきっかけになったと言います。
その後タネについてより多くの人に知ってもらうため、勉強会を開いたそうです。浜松シードバンク・シードカフェは農業に関わりがある方以外にも、その勉強会で繋がった様々な視点と関心を持つメンバーで構成されており、色々な立場の人々が関わり合いながら活動されています。

川田さん「まだまだシードバンク自体があまり知られていないなってことに最近気付いて、どういう風にタネを守っていくのか説明をすること、自分たちがどう関わっていけるのかを伝えていくことができると思っていて、いろんな立場でいろんな環境で、農業とか家庭菜園とかそういうものが身近でない人でも、コミュニケーションをとっていくことで、知ることや楽しむことができると思います。タネを守ることだけじゃなくてそこから発生する広がり、繋がりがシードバンクの役割なのかなと今は思っています。」

川田さんは、各地で同様の活動をしている人たちと繋がっていくことも大事な役割だと言います。互いに連携し、どこに今何のタネがあるのかデータベース化することが目標で、それがコミュニケーションのきっかけにもなることも期待されています。
また、それぞれの農家が自己流で行っていることも多いタネ取りの技術を共有し、横の繋がりを作っていくことも重要とのことでした。

タネ取りの重要性とは?

野菜はそれぞれの土地で土に植えられ、その土地の風土に適応することで進化し多様化してきました。

川田さん「タネをとっていくことで作物の品質とか成長とかが変わってくるんですよ。環境適応性ってのがあって、繰り返し同じ地域、圃場でタネを取り蒔くと、どんどんその環境に適した形になっていくので、タネ取りは大変なだけではなくて良い効果も非常にたくさんあって、タネを農家さんが取らずに買うようになってしまったが故に、その部分が切り離されてしまっているんです。
それは効率的ではあるかもしれないけれども危うい部分も含んでいます。自然とどう関わるかというところが薄くなっても、肥料をやり収穫に繋げることが出来てしまうので、一見その方が効率的で収穫がたくさんあってという風に見えるかもしれないけれども、犠牲にしてしまってる部分が本当はたくさんあるんだっていうところが大事にしていくべき部分かなと思います。」

タネをただ保管しておくのではなく、どんどん色んな土地で蒔かれてその土地に根ざして進化することを、何世代も繰り返すことこそが、タネに本来の力を発揮してもらうことなのです。

タネを蒔く環境によって、作物の個性にどれくらい差が出るのかがよくわかる逸話を、川田さんが聞かせてくれました。
最初に川田さんが農業研修に行った先の農家オーナーさんに、大根のタネをもらったそうです。研修先のオーナーさんは野性味溢れる大柄な方で、その方が育てた作物もオーナーさんに似て暴れん坊で生命力の強いものでした。しかし、いざ川田さんがそのタネを育ててみると、しゅっとした上品な感じの大根になったそうです。

そんなことから、自家採種している農家さんの間では「タネを蒔いた人の個性が作物に出る」と言ったり、「タネを撒く時にケンカしていると芽が出ない」と言ったり、そんなジョークもあるといいます。

種子法廃止、種苗法改正、タネを取り巻く環境について思うこと

2018年4月に種子法が廃止となり、2020年12月に種苗法改正が可決されました。賛否両論が巻き起こりましたが、個々の賛成/反対よりもまずはもっと関心を持ってもらうことが必要と川田さんは言います。なぜなら、どちらの法律も驚きのスピードで展開され、国民の言葉をしっかり受け止めたとは言えない状況の中、決まっていったという過程があるためです。

川田さん「人によって受け止め方や注目するポイントが違うので、自分自身が法律の内容についてこう思うということより、まずは自分たちの生活に直接関わりがあるということを伝えたい。タネの話題に関心を持つ人を増やしていきたい。」

川田さんはこれらの法律が成立した時、「食べ物を手放す」という危機感を感じたと言います。
タネに関する法律の現在地、これから予想されうる状況について共有していく場としてもシードバンクの役割があるとのことです。

また川田さんは実際の法律の内容と関係なく、自家採種について誤ったイメージが独り歩きしてしまうことにも警鐘を鳴らします。

「自家採種を今までしてきた人も法律が変わることで自家採取していいのって思っちゃう人、 しちゃいけないんじゃないのって思っちゃう人が割と多いんです。シートバンクの説明をして農家さんと話をするんですけど、これって法律に触れてないのって必ず聞かれるんですよ。法律に触れてないから活動するのに。(笑) そう聞かれるとそこまで認知されていないのかと思うので、やっぱり今までやってきたような自家採種は大丈夫なんだよっていうことをちゃんと伝えたいなと思います。」

種苗法において保護される品種は、新たに開発され、種苗法で登録された品種に限られ、それ以外の一般品種の利用は何ら制限されません。

*一般品種とは、在来種、品種登録されたことがない品種、品種登録期間が切れた品種です。(*1)

*1 “種苗法の改正について:農林水産省.”  アクセス日: 2021年2月16日
種苗法の改正について:農林水産省

今後の活動について

現在浜松シードバンク・シードカフェさんが取り組んでいる活動のひとつに「地元のヘチマでマイクロプラスチックを減らさまいか」というものがあります。

シードバンクの仕組みについて説明するために描いたヘチマのイラストから始まったというこの活動は、ヘチマを育て食べたりタワシとして利用したり楽しみながら、それが結果タネを繋げ、タネに真価を発揮してもらうことになるという有意義なものです。
今年は既に2つの保育園での活動を予定しているとのこと。子どもたちも楽しく参加できそうな内容ですね。

2月27日に団体のスタートイベントとして開催される「タネをまきましょう」に参加申し込みをした方のうち希望する先着100名に、ヘチマのタネが送付されます。オンラインイベントなので、遠方の方も是非ご参加ください。

お申し込みはこちらから
https://www.facebook.com/events/2636849603290444/permalink/2660908007551270/

また浜松シードバンク・シードカフェでは、耕作放棄地をコミュニティガーデンにする活動も進行中です。
初めはタネ取りのデモンストレーションをするための圃場として畑を持つことを検討しましたが、コミュニケーションを取っていく活動としてコミュニティガーデンを作るワークショップに進展しました。
これについてはパーマカルチャーデザイナーの高橋さんにお話をお聞きしました。

ワークショップに参加したメンバーで自由に話し合った結果「食べられるお庭を作りたい」という声が多く、林のように木々があるエリアは現在の状態を活かしつつ果樹を植え、散策しながら木の実をつまめるような空間を目指しています。
畑のエリアは、タネ取りの圃場として交雑を防ぐ方法等、技術的な面の提案もできる場所にする予定です。

高橋さん「コミュニティって人為的なものではなくて自然発生的になっていくし、自然に任せておくといろんなことが起こりうるんですよね。なので様子を見ながら、今は冬で枯れ草が多い状態になってますけど、これから春になって暖かくなって、何か野草的なものが生えてくる雑草も生えてくる、どういう風に変化していくのかまだわかりませんので、土地に有るものに合わせつつ活動していけたらいいかなと思っています。」

自然の都合に人間が合わせるコミュニティガーデン、春に向けての変化が楽しみな可能性に溢れる場所です。

拠点となるオーガニック食品点すいーとまむさんで、今後多彩なワークショップも行っていきたいとのこと。浜松シードバンク・シードカフェさんの交流の中心となるこちらのお店で、今後どんな人が集まりどんな催しが開かれるか楽しみです。

楽しく未来にタネを蒔いていきます。

インタビューの最後に、浜松シードバンク・シードカフェのみなさんがにぎやかに宣言してくれた言葉です。

畑を始めて漠然と「私のように、生産者と消費者の中間の立ち位置で農に関わる人がもっと増えた方がいい気がする」と思っていましたが、今回の取材でその具体的な理由を見つけることができました。生活の中に農を取り入れる人が増えると起こる良いことの1つは、現在の慣行農業では難しい固定種や在来種の栽培がなされ、そのタネが引き継がれ進化し守られていくことです。

韓国のことわざにこんなものがあります。
「農夫は飢え死にするとしても、タネを枕に敷いて死ぬ。」(農夫餓死 枕厥種子)
過去、今ほど農業技術が発展していなかった時代、どれだけ食べる物が無くても次に植えるためのタネだけは残しておくほどに、タネが貴重なものだったということがわかります。
しかし現在を生きる私たちにとっても、変わらずタネはとても大事なものなのだと、浜松シードバンク・シードカフェさんのお話を通じて感じました。

農業に直接関わりがある人もそうでない人も、食べ物の未来を私たちの手にしっかり握っておくために。「タネの図書館」とは、誰もが関心を持つ必要のあるタネの話を、楽しく知ってほしいという、まさに人間の未来のためにタネを蒔いていくような活動でした。

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