就農移住するなら…、おすすめは「便利な田舎」
「都会の喧騒から離れて、田舎でのんびり農業でもしながら暮らしたい…。」誰しも1度はそんな考えが頭をよぎったことがあるのではないでしょうか。しかし、「田舎」と一口にいっても、さまざまです。移住先選びは、失敗すると、想定外の困難が待ち受けているかもしれません。そこで、この記事では、わたしが就農移住先としておすすめする「便利な田舎」についてご紹介したいと思います。具体的には、便利な田舎の定義や、便利な田舎に住むメリット、便利な田舎の探し方などについてお伝えします。就農移住に興味のある方は、ぜひ参考にしてください。
◆便利な田舎とは?
現在わたしが農業をしている場所は、まさに「便利な田舎」です。自宅から車で3分の場所に1haの畑を借りて、露地野菜を作っています。東海地区の沿岸部に位置し、平地で気候も温暖、のどかな風景が広がる気持ちのよい場所です。しかし、自宅からは徒歩圏内にコンビニとスーパーがちゃんとあります。その他、金融機関や学校、病院などの日常生活に必要な施設も1.5km以内にすべて揃っています。徒歩圏内といっても、実際はほぼ車での移動です。田舎は渋滞がなく、どこへいってもほぼ駐車場代がかからず、傘をさすことも、重い荷物を運ぶこともほとんどないので、都会に住むよりかなり楽だと感じています。また、車で30分ほど行けば、高速のインターや東海道新幹線の駅もあるので、帰省や旅行にも不自由しません。新幹線の駅周辺には大きいコンサートホールや美術館などもあり、文化・芸術にも触れられます。これが、わたしの思う「便利な田舎」の生活です。
◆便利な田舎のメリット
便利な田舎に住むメリットはいろいろあります。山にこもって自給自足の生活がしたいなら、ポツンと一軒家のような選択肢もあると思います。しかし、過疎地域はスーパーや学校が遠いというだけではなく、普段わたしたちが当たり前のように享受しているサービスが受けられないことも多々あるのです。
- 市民サービスが充実
限界集落では、上下水道が整備されていなかったり、ゴミ収集のサービスが受けられなかったり、ということがあります。また、近くに消防署がなければ、地域で消防団を結成しなければなりません。台風や豪雨被害で道路が塞がれると、しばらく孤立してしまうこともあるかもしれません。その点、ある程度人口があるところなら、行政のサービスが行き届いているので、普通に生活できます。
- 農作物の販路の選択肢が多い
農業で生計を立てるなら、やはり販路が必要です。あまり田舎すぎると、生産物を販売できる場所は麓の直売所だけ、なんてことも…。わたしの住んでいる地域では、JA、市場、直売所など複数の出荷先があり、かけもちで利用することができます。
- 仕事の選択肢がある
便利な田舎には、農業以外でも副収入を得たいときに、近くに働ける場所があるのも心強いですね。
◆隠れた便利な田舎のみつけ方
このように、ほどよく田舎だけど便利な場所の人口の目安は、1万5000〜2万人程度。地域によって多少差があるものの、これが人口5000人くらいになると、バスが1日2〜3本しかなく、大きいスーパーへ買出しに行ったり、子供が高校に通うにも不便、というようなことにもなりかねません。なので、住んでみたい地域があったら、まずは人口を調べてみることをおすすめします。しかし、単純に現在の人口だけで検索するより、わたしが更におすすめしたいのは、「隠れた便利な田舎」を探すこと。実は、わたしが現在住んでいる場所は、もともと人口2万人弱の町でした。しかし、2005年に近隣の5つの市町村が合併し、人口17万人の市になりました。このように、平成の大合併で元の状態が見えにくくなっている市町村が全国にたくさんあります。合併が行われたピークが2005〜2006年なので、それ以前の地図と見比べたり、人口を調べたりすると、わかりやすいかもしれません。
この隠れた便利な田舎に住むことは、かなりメリットがあります。近年は、どの地方自治体も人口は減少傾向にありますから、近隣の市町村が合併することで、充実した市民サービスが維持できるのです。我が町でも、合併後は市内5つの図書館や市民ホール、体育館などが利用できるようになりました。また、子育て支援や農業関連の各種補助金なども充実していると感じます。しかし、合併前は小さな町だったこちらの地区は、中心市街地に比べると、かなりのどかで、地価も安く、まとまった農地もあるのが魅力です。住宅地の中にポツポツとあるような小さい畑では作業効率が悪くなります。また、畑周辺の交通量が多いと、トラクターでの移動は危ないですし、農業機械の騒音や農薬散布で付近の住民に気を遣わなければなりません。
そして、便利な田舎の中でも更に便利に暮らすには、役場の周辺に住むことです。どんなに小さな町でも、役場の周りには小中学校、金融機関、病院、バス停などが密集しているものです。だから、1.5km圏内で生活が完結するのです。これなら子育ての不安や、老後の心配がありません。
◆田舎に就農移住するには
現在は、多くの自治体で農業の担い手を募集しています。もし、興味のある自治体がみつかれば、HP上の問い合わせ先に連絡し、就農相談にのってもらうのが手っ取り早いでしょう。また、就農フェアなどを活用し、複数の場所を比較検討してみるのもよいと思います。ただ、Iターン就農者を積極的に誘致していて、住居が既に用意されているなどあまりにサービスが手厚い自治体は、交通の便が極端に悪かったり、気候が厳しかったりして、過疎化が深刻な場合があるので、慎重に検討されることをおすすめします。その点、便利な田舎では、まだそこまで人口減少ががすすんでいないため、どちらかというとIターンよりUターンを推奨していたり、これ以上人口が減らないよう市民サービスに予算を使っていたりします。しかし、うちの地区の新規就農者の多くは、わたしも含めて、他の地域から来た人たちがほとんどです。なので、研修プログラムや移住プランが用意されていない地域でも、自力で就農することは可能です。
◆田舎の物件の探し方
移住の際に、都会の感覚で、とりあえずアパートに入居される方がいらっしゃいますが、アパートでは農機を置いたり、出荷調整したりするスペースがありません。移住前にある程度農地の目途が立っているなら、敷地の広い農家住宅を探すべきです。まずは、就農先の自治体や、研修先のツテで住居を紹介してもらえないか、相談してみるのがよいでしょう。もし、自力で中古住宅を探すなら、地元の不動産屋に「電話で」問い合わせてみるのがおすすめです。田舎の不動産屋さんは、HPなどを頻繁に更新しているわけではありませんが、地元の人からの口コミで良い物件情報を抱えていることがあります。田舎に空き家はたくさんありますから、根気よく探せば、条件の合う場所が必ずみつかるはずです。
◆まとめ
近年、都会から地方へ就農移住するには、既に用意されたさまざまな研修プログラムの中から移住先を選ぶ、というのが一般的になっています。しかし、実際にそこで長く生活するなら、移住後に「こんなはずではなかった」とならないために、あらゆる視点で移住先を検討することが必要です。そこで今回は、町の人口からその地域の生活の便利さや販路の状況などを探る、という方法をお伝えしました。キーワードは「隠れた便利な田舎=周りの市に合併された、元人口2万人程度の町の、役場周辺」です。さらに、新幹線の駅があるような大きい都市に隣接しているとより便利だ、ということも覚えておいてください。この記事が、これから就農を検討される方のヒントに少しでもなれば幸いです。