愛する里山里海の風景を次世代につなぎたい 能登に恋しつづける木こり・大地さんが語る林業の魅力
「体力勝負かな…」「自然の中で働けるのは良さそう…」といったところでしょうか。
「なり手が減っている」ことを聞いたことがある方もいるかもしれません。
実際に林業従事者は年々減少。平成2年には約10万人いましたが、平成27年には約4万5000人と半分未満に。(出典元)森に人の手が入らず荒廃し、台風時の土砂災害の一因にもなっています。
今回のインタビューは、そんな林業界から。能登森林組合で木こりとして働く大地敦子(おおちあつこ)さん。兵庫県丹波市出身の25歳です。
大地さんは「とにかく、山が好きで、林業が好きで、ずっとこの仕事に関わりつづけたいんですよ!」と一点の曇りもなく伝えてくれました。
そんな熱い想いを持つまでの経緯、そして能登に恋しつづけている理由は何なのでしょうか。
林業は楽しくてしかたがない!! 良い道をつけるため研鑽の日々
“林業”と聞いてインタビュアーの私もキツそう…と思ったので実際どうなのか聞いてみました。
「林業はキツい仕事ではあるんですけど、私にとっては楽しくてしかたがない仕事なんです!!例えば、夏に雨が降るとかっぱを着て作業するんですけど、暑いから、汗なのか雨なのかもう分かんないみたいな感じで…でも私はこれでまた痩せれるな!よしよし…とか思ってるんです(笑)」
ニコニコしながら話す大地さん。林業の仕事とはどんなものなのでしょうか。
「植林・間伐(※1)・除伐(※2)・下刈(※3)・枝打(※4)という、木を育てるための一連の作業をしています。それ以外にも、竹林整備と言って、放置された竹林の竹を伐採する仕事もあります。伐採した木は建築用材やベニヤ、チップになるんです。また、能登にはアテ(※5)という針葉樹があり、それが能登の林業の特徴の一つかと思います。」
※1…木を間引くこと。残した樹木の成長や土壌機能の促進をはかる。(参照)
※2…伐採した樹木を運び出すために周辺の木々を切る作業。(参照)
※3…育てたい樹木の生育を妨げる周辺の草木を刈る作業。数年~10年間毎年行う。(参照)
※4…枝を幹の付け根から切り落とすこと。(参照)
※5…アスナロやヒバなどとも呼ばれる。(参照)
たくさんある林業の仕事。大地さんにはこれからやりたい仕事があるそうです。
「いつか“良い道をつける(※6)”仕事がしたいんですよ〜。」
※6…ここでいう道は森林作業道のことで、伐採した木を山から搬出するための道。(参照)業界では“道をつける”という言い方をする。
聞き慣れない“道をつける”という言葉。一体どんな仕事なのでしょうか?
「道をつけるためには、まず、どこに道をつけたらよいか、傾斜や水の流れなど地形をみたり、搬出のしやすさ等も考えて線形(※7)します。そして、重機を使って道を生み出します。重機を使って安心して使える道をつけるには、知識も技術も必要です。私は、まだまだ技術も知識もありませんし、道をつける仕事をするために必要な資格や講習もこれからです。」
※7…道の路線の形状のこと。
この“道をつける”仕事。実は私たちの身を守るためにとても重要な役割を果たすそうです。
「道のつけかたが悪いと、雨が降ったときに崩れてしまって土砂災害の原因になることもあると言われています。林業が災害を防ぐということもありますが、逆に林業のためにつけた道のせいで起こる被害は無くせたらいいなと思います。まあ…森全体のことを知ったり、伐採の技術も上げたり、重機を操作する技術をもたないと良い道はつけられないので、日々勉強ですね!」
生きていることを実感しながら、自分のペースで成長すればいい
七尾湾の風景
仕事に一直線な大地さん。毎日森にいるからこそ感じることを聞いてみました。
「いろんな種類の木を見て、いろんな生き方があるんだなって思うようになりました。竹みたいに早く成長するのは戦略的だなって思うし、ゆっくり成長する木を見ると少しずつでもいいんだって思うし。私はあせらずにやわやわ成長していけばいいかなって思ってますね!」
やわやわってなんですか?
「能登の方言で“ゆっくり”っていう意味があって、“やわやわやらんかいね〜”ってみんなよく言うんです。(笑)やわやわやることで結果として生産性があがったり、怪我しなかったりするんで。ゆっくり育つ木ほど目が細かくて丈夫になるみたいに、私もやわやわ生きられたらいいなって思います。」
また、林業は生きている実感がある仕事だと大地さんは言います。
「木、森、自然と関わる仕事をしていると、人間は生きているんじゃなくて、自然に生かされているんだなと感じます。それに、自分の命をもっと大事にしたいと思うようになりました。それは、林業が全産業の中でも最も労働災害が多い産業(※8)で、私もヒヤッとしたことがありますし、亡くなった人の話を聞くこともあるからです。なので、毎日生きて家に帰る当たり前のことにありがたみを感じるようになりました。」
※8…令和2年度の労働者1000人あたりの死傷者数の割合は全産業の4分の1以上を占める(参照)
能登で知った祭りと山のつながり、山と海のつながり
兵庫県丹波市出身の大地さん。能登を訪れたきっかけは“まちづくり”を学ぶためだったそうです。
「高校生のころは、あまり地元が好きじゃなくて東京の大学に進学しました。でも、大学時代に“丹波をおもしろくしたい”想いを持つ人たちに出会って地元の良さに気づいたので、将来は地元のまちづくりに関わろうと思うようになりました。そして、まちづくりの勉強をしようと思い、実践型インターンシッププログラム“能登留学”として能登の企業でインターンにチャレンジしました。」
初めて能登を訪れた大地さん。七尾市で毎年GWに開催されている青柏祭(せいはくさい)、そして能登各地で開催されているキリコ祭りで、祭りと山のつながりに気づいたそうです。
青柏祭の様子 “でか山”と呼ばれる曳山は高さ12メートル重さ20トン
「まちの人みんな青柏祭のことが大好きで、その姿に惚れましたね。祭りで使うでか山に、能登の文化や職人さんの技術が生かされていることを知って心を奪われましたし、木材がたくさん使われていることにも気づきました。」
「キリコ祭りで使うキリコには“アテ”が使われているんです。キリコに使えるアテの木がなく、今まで通りのキリコが作れないかもしれないという話を聞いて、山を守っていくことが祭を守っていくことにも繋がるんだなって思いました。」
キリコ祭りの様子 キリコと呼ばれる巨大な灯籠を神輿のように担ぐ
人々のくらしや文化を守っていくためには、山を守ることが必要だと感じた大地さん。山と海のつながりにも気づいたそう。
「いつかははっきり覚えていないんですけど、生まれて初めて海のあるまちで暮らして、山が豊かでないと、海も豊かであり続けられないんだということを直感的に感じたんですよね。海と祭り、その2つと山の繋がりに気づいて、林業にたどり着きました。」
林業の道に進むことを決めた大地さんですが、地元と能登、どちらを選ぶかで悩みます。
「もうほんとにすごい悩んだんですけど、能登に決めた理由は3つあって、1つ目は海があること、2つ目は祭があること、3つ目は能登が林業の先進地とは言えないからこそ、できることも多いんじゃないかと思ったからです。あと、林業しんどいわってなっても、海があるし祭もあるし、これのために林業やっとったんや!って原点に立ち返ることもできるなって思って能登を選びました。」
自分らしく生きられる場所を愛し、恋し続けます
大地さんは現在進行形で山を愛し、能登に恋しています。
「就職して、山が自分が生きる場所やなって感覚を持つようになったんですね。山に毎日学ばせてもらっていて、自分らしく生きられる場所でもあります。この先、結婚して子どもを産むってなったときに、今と同じ仕事をずっと続けられるか分からないですけど、どんな形であれ山とは関わりたいと思ってるんです。それに、私がこうやって出ることで誰かに何か気付いてもらえたらいいなとも思います。」
大地さんは能登との縁も大切にしていきたいと言います。
「いいご縁が続けば、ずっとここにおるかもしれないです。能登は自分の人生を変えるきっかけをくれた場所なので。“お前は俺の三女や”って言ってくださる方もおるし(笑)、能登に恋して3年半しか経ってないと思えんくらい懐かしさも感じてて!前世はここで生まれ育ったじゃないかと思うぐらいです(笑)」
最後にどうしても言いたい一言があるとのこと…
「私と一緒に働いていただける仲間が増えるといいな〜と思います!!」
【編集後記】
インタビュー中ずっと笑顔でこたえてくれた大地さん。林業という世界にいるからこそ、自然の教えを感じ続けられる。その教えは、ひとの生き方にまで通ずるところがあるのかもしれません。
まずは“自然のそばに身を寄せて感じてみる”のはいかがでしょうか?