【新規就農者必見】トラクターとは?基礎知識から歴史まで詳しく解説
トラクターの概要
トラクター(tractor)は、ラテン語のtrahere(引く)に由来しています。簡単にいうと牽引(けんいん)車両のことです。
昔は、馬や牛などの家畜に犂(すき)と呼ばれる道具を引っ張らせて田畑を耕したり、馬車や牛車を引かせて収穫した作物を運搬したりしていました。
この牽引という作業を畜力に代って行うようになったのがトラクターです。
トラクターは、エンジンのパワーで自らが動く力と、いろいろな作業をする作業機(アジャスター)を駆動する力に二分しています。
なので、作業機を変えて駆動させれば、耕起(土地を耕す)・施肥(肥料を撒く)・播種(種を播く)・除草(雑草を除く)・収穫・運搬といった一連の農作業のほとんどを行うことができるのです。
「田植え機」や「コンバイン」など“田植え”や“収穫”といった単一の機能しか持っていない機械に対して、トラクターは万能に近い農業機械ということができます。
これから、トラクターの歴史と今後の発展の可能性、実践的な使い方を中心に解説していきたいと思います。
トラクターの歴史
1-1.蒸気式からガソリンエンジンへ。そして大量生産の時代へ
トラクターの元祖は、19世紀の中頃、イギリスで開発された蒸気式トラクターであるとされています。
19世紀後半から20世紀前半にかけて、ガソリンエンジンで動くトラクターがアメリカやイギリスで登場しましたが、なかなか普及するまでには至りませんでした。
そんななか、1910年代後半にこの状況を一変させたのがアメリカのフォード社です。1917年、流れ作業による大量生産でお手頃な価格を実現した“フォードソン・トラクターF型”が発売されました。
価格もさることながら、その操作性の良さも相まって、爆発的にヒット。アメリカ国内でフォードソン・トラクターは一気に普及しました。
1925年以降、急速な進化を遂げ、1930年代にはほぼ現在のカタチに
1920年代には、いろいろな国のメーカーがトラクターを生産するようになり、改良も進みます。
1925年からは、作業機を駆動させるための動力取り出し軸であるPTO(パワー・テイク・オフ)軸が登場。
その後、ディーゼルエンジンの搭載、空気タイヤの装着、作業機を取り付ける3点リンク機構が採用されるようになりました。
1930年代に、ほぼ現在のカタチになったトラクターは、時代とともに進化を遂げていきます。
エンジンの防振対策、前方視界の改善がされたり、転倒や転落の時に、運転者を守る安全フレーム“ROPS”も装備。さまざまな作業に適応するための多段変速や自動変速もごく一般的になりました。
1-2.日本におけるトラクターの歴史
【輸入品から始まった、日本のトラクター導入】
約100年前、日本にトラクターが導入されました。1909年(明治42年)に岩手県に蒸気式トラクターが、1911年に内燃機関式トラクターが北海道に輸入されました。
しかし、日本では今でいうトラクター、つまり“乗用型トラクター”はすぐに普及することはなく、長らく“歩行型トラクター(耕うん機・管理機)”がおもに使われることになります。
ある学者によれば、1956年から1962年は農機の出荷台数の「第1躍進期」にあたり、動力耕うん機の開発と普及の時代と分析されています。
乗用型トラクターが本格的に普及するのは、1965年から1970年の「第2躍進期」で、中型機械開発の時代としています。
【歩行型トラクターから乗用型トラクターの時代へ】
歩行型トラクターの出荷台数は1975年前後をピークに下がりはじめ、1990年頃には乗用型トラクターとの逆転現象がおこっています。
1950年代から徐々に増えていった日本のトラクター。輸入品は、高馬力で大型のものに移っていく一方、“コマツ”や“クボタ”といった会社が国内生産するようになりました。
現在、クボタ、ヤンマー、ヰセキ農機、三菱農機、ホンダといったメーカーが小型・中型のトラクターをつくっています。
ただ、北海道の大規模農家などでは、カナダのメーカー“マッセイファーガソン”といった外国製の高馬力・大型トラクターが導入されているようです。
もう始まっているトラクターの未来
ハイテクなロボット・トラクターも、すでに登場
機能・性能ともに完璧に近くなったと思われるトラクターですが、まだまだ進化は止まりません。
自動車の世界で開発が進んでいる“自動運転”が、トラクターにも導入され普及しつつあるのです。
GPS(全地球測位システム)を利用した、人間が乗らずに農作業を行うロボット・トラクターです。タブレット端末などで、トラクターをコントロールできます。
エンジンコントロールも、作業状況にあわせてエンジン回転数や速度を自動調整することも可能です。
もちろん、前方のヒトや障害物を察知しての自動停止。搭載されたカメラで、トラクター周辺をモニターすることもできます。
大規模農場などでは、有人のトラクターで無人トラクターを監視しながら2台いっしょに農作業。こんな風景が普通に見られる時代は、すぐそこまで来ています。
トラクターができる仕事
トラクターは牽引車ですから、牽引される作業機を付け替えれば、主要な農作業を、ほぼ全てこなすことができます。
逆にいうと、作業機がなければ、ただ走ることしかできません。トラクターのドライブを楽しみたい方も稀にいらっしゃるかもしれませんね。
でも、自宅から作業現場まで行く時など、トラクターで公道を走るには免許が必要です。
長さ4.7m以下、幅1.7m以下、高さ2.8m以下、最高速度15km/h以下のトラクターを運転するには、“小型特殊自動車”免許。
“小型特殊自動車”の寸法と時速の条件をひとつでもオーバーしたら、“大型特殊自動車”の免許が必要になります。
小型・大型、いずれのトラクターも車両登録して、ナンバーをつけなければなりません。
免許取得の方法は、
①運転免許試験場で学科試験と実地試験を受ける。
②農業大学校が実施している“トラクター運転技能研修”を受けた後、実地試験を受ける。
この2つがあります。
ドライブも楽しいかとは思いますが、トラクターはあくまでも農業機械です。ここからは、トラクターができる農作業を、作業機別にご紹介します。
耕起にはロータリー
ロータリーは、「耕起」、つまり土を耕し平らにして、苗を植えやすく、種を播きやすくする作業機です。
ロータリーは「回転する」という意味があり、文字通り複数の“爪”を回して、畑や田んぼの土を細かく切り刻み、柔らかく空気を含む土にします。
“爪”には、いくつかの種類があります。一般的なものは“なた爪”で、“なた爪”に鋼を装着して耐摩耗性を高めた“ゼット爪”や、幅広で耐摩耗性に優れた“タイガー爪”などもありますが、選ぶ時は、農機屋さんに相談するといいでしょう。
当然ですが、“爪”は使い続けるとすり減ります。“爪”が摩耗すると、耕うん性能が低下し、燃費は悪くなり、機械に負担をかけてしまうので、様子を見て交換しましょう。“爪”の幅が2cmぐらいまでに減った時が、交換時期の目安です。
代掻き(しろかき)にはドライブハロー
稲作で田植えをする前に、土を細かく砕き、かき混ぜて、田んぼの表面を平らにする作業、“代掻き=しろかき”に使う作業機です。
ロータリーより幅が広いので作業工率が高く、均一に平らにする均平板を備えています。“爪”は、雑草を土の中に埋め込むことができる、ロータリーより短い代掻き専門の爪です。
基本的には代掻き専用の作業機ですが、畑に種を播いた後、土をかぶせる作業に使う農家さんもいらっしゃいます。
ただ、「代掻き以外の作業に使って故障したら保障の対象になりません」と、うたっているメーカーもありますので、ご注意を。
肥料散布はライムソワー
ライムソワーとは、肥料散布機の一種です。本来は、石灰やヨウリンなどの粉状の肥料を広範囲に撒くための機械でしたが、粒状の肥料用としても使われるようになりました。
構造は、ホッパーといわれる肥料箱と、肥料を均一にだすための攪拌(かくはん)装置(アジテーター)、繰り出し装置、トラクターへの取り付け装置からなっています。
このなかで、もっとも重要なパートは攪拌装置と繰り出し装置。ここでは羽根車かスクリューで肥料を押して、排出口から繰り出しますが、不具合があると均一に播けないことがあるので、点検には注意をはらうことが必要です。
消毒にはブームスプレーヤー
ブームスプレーヤーとは、農薬を散布する作業機です。広い畑や田んぼなどでの消毒や除草剤の散布に効率的です。
ブームと呼ばれる腕の長さ・タンクやポンプの大きさ・ノズルの種類など様々なものがあるので用途に合わせて使用します。
使うときに注意したいのは、
①ノズルに摩耗などの不具合があると、散布量が変わってしまうので作業の前にノズルをチェック。
②ホースがつぶれていたり、導管が変形したりすると、ノズルまでの圧力が下がって散布量が少なくなるので導線もチェック。
③作業後、ちゃんとした方法で洗い流さないと、薬害や残留基準超過を招きかねないので、正しく洗浄。洗浄後は真水が残るので、次回、作業を始めるとき、真水分を空散布します。
④ブームに残った薬剤をそのままにしておくと、ノズルづまりの原因になるので、ブームも必ず洗浄。
いずれにしても、薬物が相手なので、細心の注意が必要です。
畝(うね)を立てる整形培土(ばいど)機
畝(うね)は、細長いく直線状に土地を盛り上げることで、“畝をつくる”ではなく“畝を立てる”、といいます。
畝には、水はけが良くなり、とくにジャガイモやサツマイモなどの根菜類など柔らかい土の中でノビノビ生育するなどのメリットがあります。
なによりも、作物を整理して植えられ、通路を確保するので手入れが効率的にできるので、多くの作物は畝を立てて育てます。
整形培土機とは、この畝を立てる作業機です。平畝・台形畝・高畝など、栽培品目に合わせて畝の形状を選ぶことが出来ます。
また、整形と同時に施肥も行える作業機など、農作業の効率を向上させる機械も開発されています。
マルチを張るときのマルチャー
マルチャーは、整形培土機にマルチを張る機能が付いた作業機です。
栽培する作物によって畝の高さが違います。マルチャーには平畝用と高畝用があるので、使い分けが必要です。高畝用は限界はありますが、平畝にもある程度対応できます。
マルチャーは、ロータリーの後ろに角パイプが付いているので、そこに取り付けます。
角パイプはほとんどのロータリーに付いていると思いますが、ない場合は、ロータリーを製造したメーカーのマルチャーを、ロータリー横のシャフトケースのフレームの穴に固定します。
種を播くときは播種(はしゅ)機
播種機は、栽培品目の種を蒔く作業機です。栽培品種に応じて最適な播種機を選びます。
播種機を使うことで、種の深さや間隔を一定に保つことが出来るので作業効率の向上と高品質化が期待できます。
栽培品種の種によって、播種方式の得手不得手があります。
①ロール交換方式:野菜の種播きに最適です。野菜の種別に播種ロールを交換します。
②スライドロール方式:麦やソバに向いた方式。ロールの開きを調節して、播種量を調整します。
③目皿交換方式:種の播種目皿を交換するタイプ。大豆やトウモロコシなどに使います。
収穫にはハーベスター
ハーベスターとは、収穫が出来る作業機です。じゃがいも・さつまいも・里芋・こんにゃく・ごぼう・ねぎなど、いろいろな作物に対応したハーベスターがあります。
ハーベスターには、自走するタイプもありますが、大型の自走式ハーベスターは、作業効率はいいものの、導入コストが高いため、小規模な農家にはあまり普及していません。
トラクターで牽引するハーベスターは、処理能力では自走式には劣りますが、小規模農家にとってはコストパフォーマンスの点で選ばれるケースが多いようです。
草を切り刻むハンマーナイフモア
ハンマーナイフモアとは、草を細かく切り刻む草刈り機のことです。
休耕田や緑肥の細断だけでなく、りんごやぶどうなどの果樹園の下草刈り、アスパラやゴボウなどの茎葉処理にも使われます。
ハンマーナイフモアの刃は、ロータリーの爪にように固定されているのではなく、1点を支点に振り子のように動く仕組みになっていて、遠心力で草をたたき切っている感じです。
これは、ロータリーは土を耕すことを前提にしているのに対して、ハンマーナイフモアは石や木などの障害物があるところでも使われる可能性を考えた構造。
刃は固定されてなくフリーな状態なので、硬いものに当たったら跳ね返るだけなので、刃が折れたり曲がったりすることを防げます。
刃は両刃になっているので、切れ味が悪くなったら刃の向きを反対に取り付ければ切れ味は復活。両刃が切れなくなったら交換です。
ハンマーナイフモアを使うときは、マルチ、ロープや縄などのヒモ状のモノ、刈った草などは、取り除きます。
でないと、マルチなどがハンマーナイフに絡みつくので、取り除くたいへん厄介な作業が発生します。
雪国には欠かせない除雪機
除雪機は、雪が降る地方ではなくてはならない作業機です。道路や農道を除雪したり、農作業の妨げとなる雪を取り除くために使用します。
トラクターは基本的に4輪駆動なので、雪のなかでも動けますが、雪の量や質によってはチェーン装着が必要な場合もありますので、チェーンを用意するのが無難です。
以上、トラクターの歴史と近未来。トラクターのできる仕事をご紹介してきました。トラクターは、農業には欠かせない万能な農業機械。長い歴史と将来もっと進化する可能性があることをおわかりいただけたでしょうか。読んでいただいた方、ありがとうございます。
トラクターなど中古の農機をお探しならノウキナビが便利です。
ぜひ一度、のぞいてみてください。