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【コンバインとは?その歴史と将来】なぜコンバインは高価なのか、その秘密がわかります。

コンバインの概要

コンバインとは、稲や麦を刈り取りながら、脱穀することのできる農業機械。語源は“combined”で、“結合された”という意味です。つまり、刈り取ることに特化したバインダーと、脱穀しかできない自走式脱穀機を結合させて、一連の収穫作業をできるようにしたものです。

日本の稲作でいちばん労力がかかるのが“田植え”と“収穫”といわれていますが、“コンバイン”は、1960年代、“動力式田植え機”とほぼ同時期に開発され、農作業を飛躍的にスピードアップさせた救世主となりました。

コンバインは、2条刈りから7条刈りまでいろいろな大きさがあります。ただ、農業機械のなかでもとても高価な部類。75馬力・5条刈り以上のものは1千万円を超すメーカー希望小売価格のものもあります。高級自動車なみの価格ですね。

コンバインは“自脱式”と“普通型”の2種類があり、日本の狭い農地で稲などを収穫するために開発されたものが“自脱式コンバイン”。“普通型”は、欧米型のハーベストコンバインのことで、大規模農園で、おもに麦や大豆を収穫するために使われます。

ここから説明する“コンバイン”は、“自脱式コンバイン”のことになります。

1.コンバインの歴史

1-1 収穫作業の歴史

コンバインの歴史を説明する前に、コンバインの ①稲を刈り取る ②脱穀する ③米とゴミを選別する という3つの機能。この作業の歴史的な移り変わりを見てみましょう。

①刈取り

昔は鎌(かま)を使って、稲を手で刈っていました。

日本で鎌は農耕が盛んに行われていた弥生時代に石包丁とともに使われていたといわれ、その後、現代までのとても長い歴史をもち、いまでも機械が入れない部分の稲刈りは鎌で行っています。

大正時代末期には“人力刈取機”も登場。戦後以降、動力式の刈り取り機が開発され、現在のバインダーにつながっていきます。

バインダーは、刈り取り・束ねる・束をヒモで結ぶという作業が一気にできる画期的な機械です。

1965年に、久保田鉄工から倒れた稲を起こしながら刈り取ることのできる装置を備えたバインダーが登場。その装置は、バインダーだけではなく、コンバインの進化に大きく貢献しました。

・刈り取りの進化・

  

昔は鎌で手刈りでした。

それが人力刈取機になって

現在ではバインダーになりました。

②脱穀

江戸時代に発明された“千歯抜き”は、稲などの束を振りがぶって鉄製もしくは竹製の歯に叩きつけ、引き抜いて脱穀する機械です。

明治時代末期に開発された“足踏み式脱穀機”が登場するまで、日本各地で使われていました。

“足踏み式脱穀機”は、足で板を踏んで上下運動をおこし、それを回転運動に変えて多数の突起物がついたドラムを回して脱穀する方式。

発動機(エンジン)や電動機(モーター)の力をベルトを介してドラムを回す固定式の脱穀機が登場すると廃れていきます。

現在は、列をなして干されている稲束に沿って動きながら脱穀する、自走式の脱穀機“ハーベスタ”が主流です。

・脱穀の進化・

江戸時代からは“千歯抜き”でした。

“足踏式回転脱穀機”は画期的な発明。

いまは自走式の脱穀機“ハーベスタ”。

③選別

箕(み)は、米などの穀物からゴミなどを吹き飛ばす道具で、振るうことによって、重い米粒を残し、軽いゴミを吹き飛ばして選別します。

大昔はこんな重労働をして選別していたワケですが、江戸時代になると、ハンドルで羽を回し、その風力で選別する唐箕(とうみ)が登場。選別作業はかなり効率良くなりました。

その後、動力付きの唐箕になりましたが、地域によっては金属製になった手動式の唐箕をいまだに使っている場合もあります。

・選別の進化・

昔は箕(み)で振るって米とゴミを選別していました。

唐箕(とうみ)は、人力で風をおこして選別する仕組み。

そのうち、唐箕は金属製になり電動式も登場します。

①刈取+②脱穀+③選別=コンバインになります。

稲や麦を刈取り、脱穀し、穀物と不要なゴミを選別する。

これまで、別々に行っていた収穫作業を1台で一気にやってしまうのがコンバインです。

稲作が始まったのは縄文時代後期といわれていますが、3000年前から進化を続けた米の収穫作業はコンバインで最終章を迎えたといってもいいのではないでしょうか。

1-2 コンバイン開発の歴史

~欧米型の“普通型コンバイン”は普及せず~

日本でコンバインは1960年代、政府が推進した農業構造改善事業の一環として導入されました。

しかし、導入されたコンバインは、アメリカや旧ソビエト連邦などの大規模農場で使われていた、前記の“普通型コンバイン”。

欧米に比べ狭く、地盤が軟弱な日本の水田にはあまり向かないタイプでした。

また、穀粒の破損が多かったり、“わら”が回収できないため、脱穀後に堆肥や家畜の飼料などに再利用できないという理由もあり、定着には至らなかったのです。

~“コンバイン”と“田植え機”は日本の稲作の救世主~

1960代前半は、日本の米の生産が最も盛んな時期で、全国の稲作の面積は310万ヘクタール。これは北海道の面積の約4割弱の広さです。

米の生産量は1200万トン以上で、2016年の800万トンに比べると1.5倍もつくられていました。

こんな稲作全盛期に、機械化は必須なものとなり、農林省は1961年から2年間“新農機開発研究会”を開催。“田植え機”や“コンバイン”などの稲作機械の開発を支援したのです。

“新農機開発研究会”は、農業機械メーカーや専門研究家が集まった官民一体の研究会。新機種開発に取り組み、公開実験や成果発表会を開催していました。

コンバインは、農林省農事試験場が旗振り役になり、上森農機の協力のもと研究開発がはじまり、1961年の“新農機開発研究会”で試作1号機が公開されることになります。

結果的には実用化には至りませんでしたが、コンバインの開発はここから民間の農機具メーカーに引き継がれていったのです。

しかし、各メーカーのハードルは多く、いちばんの悩みは“倒れてしまっている稲をどうやって刈るかと”いうことでした。

その問題を解決したのが、滋賀県の川崎正博氏が考案した“倒伏稲の引き起し装置”。突起のついたチェーンの回転で倒れた稲を起こす装置です。

この装置を採用したバインダーは、1965年に久保田鉄工で開発され、このバインダーの方式が、その後のコンバインの方向性を示すことになりました。

~日本の農業のための、日本人による、日本独特の進化~

コンバインを最初に開発し販売したのが井関農機。1967年に発表された、“HD50型フロンティア”は2条刈り走行型コンバインは、発売1年で1064台を売り切りました。

日本の稲作事情にあった独創的なコンバイン“HD50型フロンティア”の登場から3年後、コンバインに次の転機が訪れます。

1970年に発売された4条刈りコンバイン“HT125”は、機械の前で稲を刈る“前刈りタイプ”でした。

これまでは機械の側面で刈る“側面刈りタイプ”だったので、田んぼの外側から一方方向でしか刈り取れませんでした。

なので、稲刈り前に、コンバインが最初に走行する部分を手刈りする必要だったのです。

“前刈りタイプ”は、どの方向からでも刈取り可能で、どこからでも刈れる効率的な方式。

この“HT125”の登場を機に、すべての農機メーカーは“前刈りタイプ”に移行することになります。

いまや主流になった乗用型もこの年に発表されており、日本独特のコンバインは本格的な普及期に入り、稲の収穫効率を画期的に高めました。

さらに、収穫した籾(もみ)の処理方法も、“袋詰め式”から“グレンタンク式”に進化し、収穫後の作業も簡素化されたのです。

袋詰め式は、集められた籾が詰まられた袋を手作業でコンバインから取り出し、まとめてトラックなどで乾燥機のある場所まで搬送しなければなりません。

1袋30kgほどの籾袋をヒトの手で収容し、トラックに積み込み、乾燥場まで運んで降ろす作業はかなりの重労働です。

その点、“グレンタンク式”は、籾をいったんタンクにためて、アーム状の“オーガ”とよばれる排出装置によってトラックに積まれた籾コンテナなどに排出します。

タンクの容量は、250~2,000リットル程度で、2,000リットルの場合、籾袋で約40袋に相当。大幅な省力化になります。

その後、ライト、キャビンの設置、ラジオやエアコンの搭載といった快適性の追求や、7条まで刈ることのできる大容量機種が登場するなど、コンバインはさらに進化しています。

2. コンバインの功績と将来

~収穫時間を1/19に縮めたコンバインのチカラ~

コンバインは、稲の収穫時間を驚くほど短縮しました。

10アールあたりの作業時間は、

手刈り→味踏み式回転脱穀機(選別作業は除く)=54.4時間

バインダー→ハーベスタ=35.5時間

初期コンバイン(1980年~)=14.5時間

最新コンバイン(現在)=3時間

となっており、コンバインがなかった時代に比べると、1/19に短縮されています。

“コンバイン”や“田植え機”の出現により、長時間の重労働を軽減することができたことで、普段は会社などで働き、週末に農業を行う“兼業農家”が増えたことも事実です。

このように、コンバインは日本の農業のあり方も変えていきました。

~ハードは完成形。これからはソフトの進化~

“袋詰め式”から“グレンタンク式”に進化したコンバインですが、最近、このグレンタンクに測定器を組み込み、重量と水分量を測定し記録する機種も登場しています。

また、重量と水分量だけでなく、“米の味”までわかるコンバインも出現。近赤外線を使って、米の食味の決め手となるタンパク質と水分の含有率を収穫しながら測定できます。

食味や水分量を把握することにより、来期の肥料の配分や量を的確に判断できるなど、計画的な土づくりが可能になったのです。

もちろん、近年、実用化が進んでいる自動車の自動運転も農業機械の世界でも取り入れられてきていて、GPS(全地球測位システム)を活用した自動運転コンバインの開発も進んでいます。

今年、公開された実演をみると、自動運転コンバインは自動で稲刈りをして、グレンタンクが満杯になったら、籾を運搬する車まで移動。

タンク内の籾を輩出したら、刈取り作業を中断した場所に帰ると思いきや、“今度はどこから刈ったら効率よく作業ができるのか?”を計算して的確な位置に戻っていきます。

なんとも、ロボット掃除機のような動き。コンバインもここまで賢くなっていたんですね。

コンバインは機構的には、ほぼ完璧なカタチに完成されたと考えてもいいでしょう。今後は、自動運転に代表されるソフトウェアの面でさらに進化して、日本の農業を支えてくれるはずです。

冒頭に書いたように、コンバインはとても便利ですが非常に高価です。「年にわずかな期間しか使わないのに新品を購入するのはいかがなものか」とお考えの皆様。

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