高校生が環境問題に取り組む意義とは? Hakuba SDGs Lab インタビュー
ここ最近注目を集めている環境問題。
毎年のように起こる自然災害や毎年少しずつ上昇する気温など、人々が問題の深刻さを体感できるほどになってきました。
世界中が警鐘を鳴らす中で、注目を浴びたのが若き環境活動家であるスウェーデン出身の環境活動家です。彼女の存在は若い世代を刺激し、世界中で必死の抗議が繰り広げられました。ここ日本も例外ではありません。
そんな中、長野県白馬村でも注目を集めている活動グループがあります。
それがHakuba SDGs Labです。その中でも環境問題については、主に高校生3人が中心となって活動しています。彼らは一昨年、白馬村に気候非常事態宣言の発令を要望、その結果村として非常事態宣言が出されることになったことで一躍話題となりました。
今回の記事ではHakuba SDGs Labの活動について紹介するとともに、環境問題の現状について少しでも多くの人が知識を培うことを願っています。
取材を受けてくれたのは高校生の3人とHakuba SDGs Labの仕掛け人である渡邉さんです。
渡邉宏太さん。(以下渡邉さん)白馬村役場の職員。千葉県出身だが、子供の頃から母親の故郷である白馬に遊びにきていたことがきっかけで白馬を気に入り、大学卒業後に村役場に入庁。以来持続可能な地域づくりを目指して様々な活動に取り組んでいる。
宮坂雛乃さん。(以下雛乃さん)白馬高校国際観光科の3年生で、長野県長野市出身。
金子菜緒さん。(以下菜緒さん)白馬高校国際観光科の3年生で、東京都出身。
雛乃さん・菜緒さん共に英語が好きで、フィールドワークなどで実際に外国人観光客などと関わる機会が多い国際観光科に魅力を感じ、白馬高校への進学を決意。
手塚慧介さん。(以下慧介さん)白馬高校国際観光科の3年生で、長野県上田市出身。
山好きで、インタビュー当日も唐松岳に登っていた。
今回の記事では、生徒たちと渡邉さんの出会いからHakuba SDGs Lab の発足、発足後の活動について、インタビューを元に紹介します。
今まで様々なところで活動報告や講演を行ってきた高校生の3人。
彼らの想いやその想いをどう実現してきたか、彼ららしく説明してくれました。
渡邉さんたちと高校生3人の出会い
生徒数が少なくなりつつあり、存続危機に陥っていた白馬高校。そこで、行政の担当者として渡邉さん、民間人として白馬村に移住してきた草本さんが関係者と共に、存続にむけた取り組みを実施してきたそうです。
その取り組みのひとつとして、白馬高校に国際観光科を設立し、全国から生徒を募集し始めました。雛乃さんたち高校生3人は、その国際観光科の3期生にあたります。
Hakuba SDGs Lab 発足のきっかけ〜まちづくりからSDGsへ〜
国際観光科の設立など、地域活性化を目指す活動は持続しつつ、「SDGsに関してもっと白馬村で取り組めることがあるのではないか?」と考えた渡邉さんと草本さん。
その当時、地域でSDGsに関わる活動をやっている人たちは少なかったそうで、自分たちが勉強しながら活動していけるような場を作るために任意団体を立ち上げ、毎月1回勉強会やSDGsに関して情報共有する場を提供することになります。
立ち上げる際に、元々知り合いであった渡邉さんと草本さんより、ラボを立ち上げることを聞いた雛乃さんと菜緒さん。そこからラボの活動に参加することになったそうです。慧介さんは先生に行った方が良いんじゃないかと言われ、最初は「しょうがないなあと思って」参加したそうです。そんな3人がのちにとても素晴らしい活動をすることになるとは、その当時は誰も思っていなかったかもしれませんね。
そうして活動が始まったのが一昨年の6月。活動している中で、その年の9月にグローバル気候マーチが東京で開かれることを知った草本さんは、高校生である3人に情報を共有。
そこから高校生の3人が中心となって、環境問題に対する活動が活発になっていきました。
今までの活動内容
グローバル気候マーチ〜そもそもグローバル気候マーチって何?
グローバル気候マーチとは、
気候変動・温暖化に具体的な政策・行動を求める国際的なストライキ、また抗議行動
参照:ウィキペディア
のことです。
国際連合の気候変動サミットの3日前の9月20日と同月27日に開催されました。
世界中の様々な国で繰り広げられ、ここ日本でも学生有志団体であるFridays For Future Tokyoが中心となって企画され、実際にマーチが実行されました。
Hakuba SDGs Labに参加した高校生3人は東京で開催されるグローバル気候マーチに参加しないか誘われた時、「東京に行けるのか!」と思い、参加を決意。結局は学校を休めず参加できなかったそうですが、ここで「じゃあ良いや」とならず、「それだったら白馬でマーチを開催しよう!」となり、マーチを開催することに決めたそうです。
グローバル気候マーチin 白馬 当日の様子
雛乃さん:マーチは17時スタートで、白馬駅前から村役場、そして駅に戻るルートで開催しました。最初、16時50分になっても駅に全然人がいなくて、これはもしかして少人数でやることになるのか?と思い、ああどうしようと不安な気持ちになっていました。ですが、始まると色んな人が集まってきてくれて、プラカードを持ってきてくれる人もいて、総勢120人くらい集まり、みんなで村長のところに行くことができました。
そして役場に入った時は、役場の人たちが拍手で出迎えてくれて、すごく嬉しかったです。
菜緒さん:マーチを企画した頃から、インスタグラムを始めてSDGsについての投稿や私たちがしようとしているイベントの情報をアップするなど、啓発活動も行うようになりました。活動報告としてプレゼンをしに行ったり、イベントの協力依頼をしに行くことも始めました。
そうしてSNSを使って情報をアップしているうちに、気候難民の存在を知ることになりました。
Haction〜気候難民の方々への寄付
気候難民とは、気候変動によって避難を迫られている人々のことを言います。
(参照:国連UNHCR協会)
2008年以来、毎年平均2,150万人が、洪水、嵐、山火事、極端な気温などの突然生じる天候に関わる災害によって避難を強いられてきました。さらに数千人が、干ばつや海面上昇による海岸の浸食などのゆっくりと進行する災害によって彼らの家から逃れています。科学者たちの間では、気候変動と他の要因の組み合わせによって、将来避難する人数が増加するという予想が高い合意を得ています。
国連UNHCR協会
雛乃さん:彼らの存在を知って、白馬で何かアクションを起こそうという話になり、Hakuba+Actionで”Haction”というチャリティーバザーを開催しました。
グローバル気候マーチの時は大人や小学生が多かったですが、高校生が全然いませんでした。そういう、環境問題への意識が他の世代より少し薄い人たちでも気軽に参加できるように、バザーを開催したんです。
当日は、県外からもお客さんが来てくれたり、キッチンカーやスキー、スノーボードなどの買取業者が来て、商品を販売してくれました。
そうして集まったお金は14万円ほどになり、その14万円を国連高等難民弁務官事務所を通して気候難民の方々に寄付しました。
Save Our Snow 〜他団体を巻き込んだ白馬らしい気候マーチ
慧介さん:9月から色々なイベントを企画し、実行しているうちに、自分たちの環境問題に対する意識がすごく高まりモチベーションも上がってきました。そこにきてその年の冬、雪が全然降らなかったんです。気候変動によって自分たちの遊ぶ場所の雪がなくなってしまうと悲しいなというところから始まったもので、そういった実際に被害を受けている部分から世界に発信していったら面白そうだなということで、みんなで集まってスキー場で気候マーチをするイベントを企画しました。それがSave Our Snowです。
白馬はスキーの世界大会などを開催していて、世界中のプロのスキー選手らと話す機会もあり、実際彼らがSave Our Snowのマーチに来てくれたりして、イベントはとても盛り上がりました。
写真に、POWと書いてあるのが見えると思いますが、これはProtect Our Winterというスノーボーダーやスキーヤーの団体で、Save Our Snowの時も全面的にバックアップしてくれました。
白馬村や学校を巻き込んだ環境問題への取り組み
グローバル気候マーチin白馬とHACTIONの両方で、気候非常事態宣言のための署名を集めていたそうです。そうして集めた署名を、その年の12月に提出し、提出した翌日の村議会で気候非常事態宣言を発令するに至りました。
白馬村気候非常事態宣言はこちらから確認できます。
新しい視点で周りを巻き込み、環境問題への意識向上に務めてきた3人。ついに高校でアクションを起こし始めることになります。
菜緒さん:気候非常事態宣言を学校にも出したいね、という話になったんです。
まず、白馬高校には自動販売機がたくさんあり、そんなに必要ないと思ったので、環境負荷の大きい自動販売機を少なくすることを校長先生に交渉しに行きました。
他にも、環境アクティビストの方を呼んで、環境の授業をしてもらったりもしています。
また、白馬高校は断熱効果が全くなくて、ストーブで石油をたくさん使うのでそれを少しでも減らそうと、自分たちの手で断熱改修も行いました。
このプロジェクトを始める前に、全校生徒にアンケートを取ったり、温度計で調査をしたりしました。(環境問題以前に)手がかじかんで授業が受けづらかったことがある、なんておかしいじゃないですか。だから断熱改修は絶対にするべきだと思い、1年生も巻き込んでワークショップを行うことができました。
高校生の意識の変化(活動前とあとでどう意識が変わったか)
ーー実際にHakuba SDGs Labとして活動するまでは、環境問題について考えたことはありましたか?
菜緒さん:活動する中で段々と知識が増えていき、真剣に考えるようになりました。
雛乃さん:それまではあまり意識したことがなかったです。
菜緒さん:(一昨年の)9月以降は学校の自販機から飲み物を買っていないと思います。あと、ビニール袋をほとんど貰わないようにしたり、あとはステンレスストローを使ったりとか。
雛乃さん:マイ箸やマイストローを買ったり。
菜緒さん:身近でできることはなるべくするようにしています。
高校生たちが周りに与えた影響
ーー環境アクティビストの方や大学の教授の方を呼んで授業をしてもらうのは、3人から学校側に依頼して実現したのですか?
菜緒さん:そうです。私たちから先生にお願いしたら、「良いよ、わかった」って感じで時間作ってくれて。笑
そうして実現しました。
ーー生徒の反応ってどうですか?
雛乃さん:SDGsについて、他の学校に講演に行くと、他の学校の生徒は「SDGsって何?初めて聞いた」って人が結構いますが、私のクラスの子たちは、「SDGs?ああ知ってるよ」みたいな感じになっています。
ーー結構周りを巻き込めている感じ?
菜緒さん:うーん、そうですね。前よりはみんなも知ってくれていると思うけど、やっぱり一番の課題は、友達ぐらいの世代である高校生に環境問題について知ってもらうことかと思います。
ーーまだその世代にはあまり浸透しきれていない認識がある?
菜緒さん:はい。
ーーそれに対しては、今後どういうアプローチをすれば、もっと環境問題について知ってもらえると思いますか?
雛乃さん:Hactionを開催した時も、白馬は買い物する場所が少ないからバザーにして、本や服、スポーツ用品を出品したんですけど、その時は(同世代の子が)結構来てくれました。
でも気候マーチとか、そういった「環境問題に危機を感じています」みたいなものにはまだまだ参加してもらえていないのかなと思っていて、でも自分が買い物できて、その買い物したものが寄付に回るようなものだったら、自分たちも買い物できて楽しいと思うし、みんな集まってきてもらえるんじゃないかと思っています。私たちもそうなんですけど、つまらなくならないように、楽しいものにすることを心がけています。
菜緒さん:楽しくないと知らない人たちも興味を持ってくれないので、楽しいという気持ちを中心に色々なイベントを考えています。
学校の断熱改修も自分たちでできるDIYで、楽しく作業ができたので良かったなと思っています。
高校生たちからのメッセージ 〜「頑張って」という言葉の中にあなた自身は含まれていますか?
ーー大人が課題に感じているのに、解決策を見出せていないところに、若い人たちが声を上げるのは、社会的にすごく価値のあることだと思います。高校生の3人から、そんな大人たちに言いたいことはありますか?
慧介さん:「頑張って」とよく言われるんです。応援されるのはすごく嬉しいし、自分たちももっと頑張ろうという気持ちになるんですけど、その「頑張って」の中にその人自身は入っているのかな?と思う時があります。
雛乃さん:「一緒に頑張ろう」の方が良いですね。
菜緒さん:「君たちがやらないと…」なんて言われることがあるんですけど、大人も関わっていく必要がある問題だと思いますね。
周りを巻き込む力で世界を変える
彼らの言葉は真っ直ぐで、ドキッとさせられるような事ばかりでした。
今まで全力でSDGs、特に環境問題について取り組みを行ってきた彼らの言葉だからこそ、響くものがあります。
そんな彼らを間近で支えてきた渡邉さんは、「3人は周りを巻き込むのがうまいと思う」と言います。
昨年は雪不足のニュースが多く流れましたが、白馬村も例外ではなく雪不足に。そういったこともあって、地域の人たちの気持ちが高まるタイミングであったことが、より一層高校生3人の活動を盛り上げていくことにもつながったそうです。
周りの方々のみならず、パタゴニアの白馬店もSNSを通して活動を広めて応援してくれていると言います。そうして地域の方々を巻き込み、新たな繋がりを広めていくことができるのも、高校生3人の「周りを巻き込む力」のおかげではないでしょうか。
3人とも周りを巻き込み、主体的に話を進めていく力を持っているので、「たまにホームページの更新が追いつかない時があります。笑」と渡邉さんは嬉しそうに語ってくれました。
まとめ
環境問題に興味がある、と口で言うことは簡単ですが、その問題に対して解決に向けた具体的な取り組みを行うのは、とても大変なことであると思います。
ですが、重く捉えすぎず、自分たちがやって楽しいと思うことを中心にどんどん問題解決に向けて走り続けている彼らを見て、とても勇気をもらいました。
そうやって走り続けることができるのは、高校生3人と渡邉さんや草本さんの信頼関係によるところもあると思います。周りの大人が彼らの思いを真剣に受け止め、いかに支えていくかで、若い世代のモチベーションも変わってくると思います。
ここ数年、世界各国でマーチや抗議活動が行われてきました。そうした人々の真剣な訴えを、真剣に考えることができた人は一体どれくらいいたのでしょうか。こうした若い世代の活躍を潰さないような社会が形成されていくことの重要性を感じたインタビューでもありました。