飲食店経営、農業人材の育成など、多彩な働き方を地域で実践する谷村さんへのインタビュー
今回のHumans of 農業は、サラリーマンとして10年働いた後、8年前に地元の京都府亀岡市で農業を始めた谷村岳志さんです。
谷村さんは、育てた野菜や地元の食材を使った料理がメインの飲食店を経営しながら、野菜の販売や農業人材の育成まで幅広い活動をされています。
独立されてからの道のり、飲食店のコロナによる影響やこれまでの経験から得た、農業で食べていくことへの思いをお聞きしました。
農業を始めたきっかけ
――ご出身が亀岡市なのでしょうか?
はい、亀岡で生まれ育ちました。地元が良かったのですが、ずっと亀岡にいるのは「井の中の亀」(京都では、亀岡に住む人を亀人ということもあるため)と言われたこともあって、10年程名古屋で仕事をしていました。外での経験を積んで、自分で何か事業をしたいという気持ちが大きかったので、地元に帰ってきました。
――名古屋では何の仕事をされていたのですか?
乳製品のメーカーで、飲食店を回ってルートセールスをする営業の仕事をしていました。
――農業には以前から興味があったのでしょうか?
まったくなかったです。もともと、大学の時から経営コンサルタントがしたいと思っていて、経営を勉強するために農業を選びました。経営だったら何でも良かったんです。亀岡という土地柄に合った経営って何だろうと思った結果、農業かなと。
アルバイトの時から飲食店で働いていたので、食の業界にはずっといたのですが、製造はしたことがないからやってみよう、というのもありました。
――なるほど、自然の豊かな亀岡だから農業がいいと思われたんですね。
そうですね。京野菜のようなブランドもあるし、農地がたくさん余っているという話も聞いていたので、可能性があるかなと思って農業を始めた感じです。自然が好きな両親のためにも、畑があった方がいいなと思って。
――農業を始める前は、研修などに行かれたのでしょうか?
1年間、専業農家さんの所で勉強しました。トマト、ナス、キュウリ、ホウレンソウ、小松菜、キャベツ、オクラ、ブロッコリー、枝豆など20種類くらい作っていましたね。季節に合った野菜を、露地栽培で育てていました。
――初めて農業を経験して、合っていると思われたのですか?
ちょうど研修の年に災害が多くて、すごく厳しいんやなと思いました。今は8年目になるのですが、農業が自分に合っているのかといえば、合っていないと思っています(笑)。
農業を経営することの難しさ
――それはなぜでしょうか?
自然が好きで、農作業も好きなのですが、単純作業をするのがすごく向いていなくて、仕事として農業をするのは、私には違うのかなと。あと、農業で食べていこうとすると、どうしてもフードロスが出てしまったり、大規模にやらないといけなかったり。色々な農家さんを見てきて、時給500円とかそんな世界で生計を立てるのは難しいなと思いましたね。
――なるほど、フードロスのような厳しい問題があったのですね。
例えば、ネギ農家さんは作ったネギの半分を捨てているとか、そういうのはよくある話です。私自身も農協などに出荷していくなかで、食べられるのに捨てないといけないことがたくさんありました。
実際に始めてみると、農作物の単価や労働時間、フードロスなどの問題に直面したという谷村さん。農業を始めてから5年後、フードロスの解決策にもなるとして野菜を使った料理を提供する飲食店の経営を始めました。谷村さんのお店「KAMEOKA FOOD Kitchen(カメオカフードキッチン)」は駅前でJRを利用する人の行き来が多い、アクセスしやすい立地にあります。夜遅くまで開いているバルが少ないこの地域で、気軽に立ち寄れて地元の食材を使った料理やお酒が楽しめるお店として、若者から年配の方まで地元の人たちに愛されているお店です。
飲食店でフードロスを解決
――「KAMEOKA FOOD Kitchen」を始めた経緯について教えてください。
お店が入っているビルの1階にあるバーに以前からよく飲みに行っていて、ある時バーのマスターから2階が空くと聞いたんです。
京都学園大学(亀岡市)に大きな食品加工工場があるのですが、そこで亀岡の野菜を使った加工品を作るための試作の場所として、そのビルの2階を使わないかという話になったことがきっかけです。
当時は、店は別の方が回すのでオーナーとしてやらないかという話でスタートしたのですが、オープンから1年半後に店長だった方が辞めてしまって、今は私一人でやっています。
――野菜の加工品を作るための場所としてお店を始められたのですね。初めはどんな料理を作られていたのでしょうか?
フードロスが気になっていたので、捨ててしまう野菜を活かしたいと思って、野菜の出汁を使ったラーメンを作っていました。今も店で提供していますね。
――他にどんなメニューが人気なのですか?
「バーニャカウダ」ですね。温野菜を生クリームとアンチョビソースでお出ししていて、よくお客様が頼んでくださいますね。あと、「ぺぺたまパスタ」も人気があります。季節の野菜が入るので毎回変わるのですが、クリーム感のある出汁ベースのペペロンチーノで、ぜひ食べていただきたいです。
――地元で採れた新鮮な野菜が食べられるのが魅力ですね。
そうですね。野菜はうちで採れたもので、肉も丹波黒どりを使っています。農業をするまでは地元の食材のおいしさに気づかなかったので、ぜひ亀岡の食材を食べてもらいたいと思いますね。
コロナの影響
――昨年からの新型コロナウイルスの流行で、どのような影響を受けましたか?
売上が半分くらいになりましたね。営業時間が減ったこともありますけど、店にはお酒を飲みに来られる方が多いので、風評を気にされて来られないという方が多いと思います。(インタビューをした5月9日はお酒の提供ができないので休業されていました)
今年に入ってから、助成金はけっこういただきました。ただ、それでも赤字を垂れ流しで、なんとか生き延びている感じですかね。
――なかなか厳しいのですね。お店の形態については、今後どのように考えておられるのでしょうか?
いったんコロナが収まったら、また通常通り営業できるのではないかなと思っていますが、野菜の加工品を作っていこうかな、とは考えています。
――どんな商品を考えておられるのですか?
コロナが流行り出した1年前から、お漬物やポタージュをJAの直売所で販売していて、キャベツのポタージュ、小カブやオクラの浅漬け、ホウレンソウのナムルなどを作っていますね。
――インターネットで、加工品や野菜を販売されたりはしないのでしょうか?
まだ、そこまで大量に作れていないですね。加工品でヒット商品ができれば、ありだと思うのですが。ネットは商品の倍くらい送料が乗ることと、亀岡は京都や大阪などの消費者圏に近いこともあるので、今のところ考えていないです。
――そうなのですね。他に何か新しい試みはありますか?
お店を継続しながら、シェアキッチンみたいな形で貸し出して、使ってもらえるようにしたいなとか。日々いろいろな方に出会うので、お互いがWin-Winになるようなものは何かなと考えたりしています。
谷村さんは3年前から農林水産省の「農の雇用事業」を使って、現在は2名の研修生の受け入れをして農業人材の育成にも力を入れています。
研修生の受け入れ
――農林水産省の「農の雇用事業」で、研修生を受け入れておられるとお聞きしました。
農業は国から守られている産業で、いろいろな補助とか補填がたくさんあると思います。他の産業だと頭打ちの世界が多いとは思うのですが、農業はまだまだ人が必要な世界で、農業をする人が増えると社会のためにもなるかなと、すごく思います。
――研修生の方たちは、農業の経験があるのでしょうか?
未経験の人がほとんどで、以前は不動産や、家庭教師の仕事をしていたり、海外を放浪していた人だったりと、様々な経歴がありますね。
――谷村さんはどのように関わっているのでしょうか?
うちの畑を使って研修生が独立に向けた経験をできるようにしています。今後自分で何でもやっていけるように、研修中に失敗もしたりしながら、独立を目指していくというのがいいかなと思っていて。その分、私は自分の農作業の時間が浮く感じですね。
――畑の大きさはどれくらいでしょうか?
点在していて一つ一つは小さいのですが、全部で1.5町(約15,000平方メートル)です。
――何の野菜を栽培されているのですか?
大体旬のものやマルシェで売れるものを選んでいて、コマツナ、ホウレンソウ、ブロッコリー、オクラ、トマト、トウモロコシ、ナス、キュウリなどですね。マルシェのお客様からの要望で品目を決めることもあります。
活気のあるマルシェ
畑で栽培・収穫した野菜は、京都市内の飲食店やスーパー、コンビニに卸しています。二条城からもほど近いショッピングモール「BiVi二条」のエントランスで週2回開かれるマルシェは、周辺に住んでいる年配の方や若い家族連れなど、いつも地元の人達で賑わっています。
――マルシェはいつ頃から始められたのですか?
5、6年前に始めました。「BiVi二条」の社員だった友人と一緒に畑をやり始めて、菜の花を作っていたのですが、市場がいっぱいであんまり売れなかったんです。その時に、駅前で人の多い「BiVi二条」の前なら売れるんじゃないかと、初めて売ったのがきっかけです。もともと、別の八百屋さんが同じ場所で曜日を決めて売られていたので、空いている曜日に入らせてもらった感じです。
――当時一緒に畑をしていた方との繋がりでマルシェを始められたのですね。谷村さんから見たマルシェでの課題は何でしょうか?
少量多品目になってしまったので、凄く栽培に手間がかかっているところで、今年の秋からは、もう少し減らして3~4品目に絞る予定です。同じ亀岡市内の農家さんなど、横のネットワークがあって色々な所から仕入れているので、うちの畑で栽培する品目が減ったとしても、マルシェで売る品目は減らないので。
――畑ではどのように栽培をされているのでしょうか?
今まで8年間、農薬や化学肥料を使用する従来型の慣行栽培をしてきたのですが、今年から研修生の一人が有機栽培をしたいということで、有機の畑を一つ作りました。
これまでは化学肥料を与えていたのですが、有機栽培にすると土が全然違うということを初めて知りました。牛ふんや馬ふんのような自然由来の堆肥でしっかり土作りをすると、土の色や細かさが本当に違うので感動して。微生物が元気な自然由来の土だと、きめ細かくて柔らかい土になるんですよね。土が柔らかいと根が伸びやすいので、これから野菜もしっかり育つのではないかなと思っています。
目標はおじいさん、おばあさんの家庭菜園
――有機栽培の土にびっくりされたんですね。谷村さんにとって、農業の魅力は何ですか?
ゴールや正解がないことでしょうか。お世話をしたらその分変わるし、深くなっていくのが農業の面白さだと思います。若い私にはまだ感じられないけど、年を取るほど、その面白さが分かる世界だと感じます。周りにいるおじいちゃん、おばあちゃんを見ていても、「毎日勉強や」と言いながら飽きずにずっと畑仕事をされているので。
――長年畑をされている方も、「毎日勉強」と言われるのですか?
毎年「今年はあかんわー」と言っておられますね(笑)。
――なかなか奥が深いのですね。
自然に逆らわないことが大切ですね。あきらめること(笑)。例えばテストでいう100点をとりにいくと、なかなか難しい。100点をとる!と思ってすごく勉強しても、全く関係のないところから問題が出てくるので(笑)。70点くらいを目標に頑張るのがいいのかなと。
――頑張りすぎない、ということでしょうか。
そうですね。ただ、小さな畑でも土作りをしっかりするのが今の理想です。飲食店の方もあり、少量生産でもそれなりに収益になる流れができてきたので、小さいスペースで確実に作りたいですね。周りのおじいさん、おばあさんが長年続けている家庭菜園のような、しっかりした畑を作っていくというのが今の目標です。
――フードロスの恐れがある大量生産ではなく、少量で確実に消費することを目指されているのですね。
そうですね。おじいさん、おばあさんの家庭菜園は本当に一番きれいですからね。時間があるからできるということが大きいのですが、やっぱり手間を掛けただけ、いいものができるんですよ。
これからの働き方について
――サラリーマンを辞めて、農業や飲食店、農業人材の育成など、幅広い活動をされてこられた谷村さんですが、これからの世の中での働き方についてはどう思われますか?
私は全部、田舎で生きていくために選んだ手段だったのですが、これからサラリーマンという生き方が時代と共にどんどん変わっていくのかなと思っています。自分の力で食べていく方法というのが、もっと必要になっていくのではないかなと。
ただ、農業だけで食べていくことが成り立つなら、そういう人が増えていくのは面白いと思います。売り先がちゃんとあって、その下で農業だけで食べていける人がいたらいいなと。今は難しいですが、難しいからこそやるべきかなと思っています。
――農業だけで食べていくことは、難しいのでしょうか?
お金という基準が変わらないと難しいんじゃないでしょうか(笑)。お金があれば食べられると思って、お金を稼ぐために仕事を求めて、都会に行かれると思うのですが、本来人間である以上、食べる物が基準にあるべきで逆じゃないのかなと思います。
野菜は作るのがすごく大変なのに、100円とかすごく安い値段で売られていますよね。
ケータイはなくても生きていけるのですが、どこまでいっても食べ物は必須です。本来人間に必要な物が、そこまで価値をみてないのかなと。
――農作物に対する価値が見直される必要があるのですね。
ただコロナ以降、農業に目が向いている人がすごく増えたと思っていて。特に女性が興味を持たれていると感じます。8年前は全くそんなことがなくて、「大学まで卒業してなんで農業するねん」と言われましたけど。本当に社会が変わったなと思います。
――農業に目を向ける人が増えてきたのは、これからの期待になりますね。最後に、谷村さんの夢は何でしょうか?
今の延長で、この輪が広がっていけばいいのかなと思います。日本中に、そして世界にもいけたらいいですけど(笑)。でも、このスタンスは変わらないかと思います。
編集後記
駅前のマルシェに初めて立ち寄った時、販売していた方と野菜を買いに来られたお客さんたちが、とても楽しそうに話しているのが印象的でした。コロナ禍のなかで家族に会う機会が減った方が、このようなマルシェで誰かと話をして野菜を買うことが、生活の楽しみのひとつになっていると感じます。
地域で生きるために、地域の人たちのための野菜を作り、地域の人が集まるお店を始めた谷村さんの活動が種となって、人の輪や流れが様々なところで芽吹き、大きく育っているのだと思いました。
▼KAMEOKA FOOD Kitchenのホームページはこちら
https://marujuji.work/kyoto-enjoyfarm/store/
https://www.instagram.com/kameoka_food_kitchen/